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旅する映画 その54 パラダイスファーム  

 
今回主催してくれたとりのす農場の藤原有二さん

 4月に入った。共働学舎の育苗ハウスの中は、苗たちがかわいい盛りだ。十勝は雪も少なくなり、春がやってきた。人生の節目・旅立ちの季節でもある。新天地へ移り、新たな暮らしをスタートさせる人、次へのステップのために旅に出る人。人生のある時期を共有した友人たちが、この春エイヤと動き出す。

  私の方は映画が完成して3回目の春を迎える。今までまいた種が芽を出して、育っていけばいいなあと思っている。映画をつくるのにもえらく時間がかかったが、上映を広めてゆくことも同じように時間がかかる。移り変わりの速い情報化社会の中で、私はカメのような歩みを続けている。

 映画を自分で直接届けることで、観客の人たちの感覚を肌で感じられる。そして人との出会いがある。「空想の森」の上映をすることで人と人とがつながり、その後も様々な形でつながっていっている。

  この映画を観たい人はまだまだいるはずだ。その人がいる限り私は映画を持って上映に行く。

 一年前の冬、とりのす農場の藤原有二さんから自主上映をやりたいと電話をもらった。そして藤原さんは仲間を募ろうと近所の有機農家の人たちに集まってもらい試写会をした。しかし賛同を得られず、その冬は実現できなかった。でもいつかきっと上映しますからとメールがきた。私は「空想の森」は腐る映画ではないからと返信した。
  そして一年後の冬、再び彼から連絡が来た。私はとても嬉しかった。

  パラダイスファームでの上映で一番感じたこと。映画は人を結ぶ。そして人が映画をつないでいく。

2010年3月6日。
 久しぶりの道内の上映だ。上映機材、物販、シュラフや毛布なども車に乗せ、少し早めに出発。狩勝峠を越え富良野を過ぎ、美馬牛のゴーシュという店でお昼ご飯と休憩。自家焙煎のコーヒーがとてもおいしかった。雪のちらつく中、パラダイスファームを目指す。


上映会場の納屋 

 少し迷って14:30過ぎに到着。大正時代の納屋を移築した建物と聞いていたが、とてもおしゃれな感じの納屋。中に入ると、服、小物、野菜など色んなお店が並んでいてにぎわっていた。

  私は主催者のとりのす農場の藤原さんと場所を提供してくれたパラダイスファームの大井健太郎さんにごあいさつをして今日の上映の段取りを確認した。藤原さんは張り切っていた。

 

  そして日が暮れるまでに時間があるので、私もフリーマーケットを楽しんだ。綺麗な布を売っているのかと思いきや、フンドシだった。売っていた女性がとても感じのいい人だった。東京の人で、フンドシ一本でやっていこうと思い、近々このあたりに引っ越してくるとのこと。フンドシは全て彼女の手作りで、オーガニックコットンや麻が素材だ。フンドシのさきっちょに古布のポケットがついていたりしておしゃれなのだ。紐も古布を使っていた。おばあちゃんの古い着物をほどいて使っているとのこと。高崎の上映会の時に出会った人からもフンドシの良さを教えられていたので、試してみようと思い、フンドシ2本を買った。それから愛用しているのだが、すこぶる気持ちがいい。

フンドシ屋さん 

 そして納屋の隣の大井さんの自宅の方におじゃました。大井さんは奥さんのタカエさんと8ヶ月の友朗くんの3人家族。2003年から水田だったこの土地で、トマトの栽培を始めた。そしてジュースをつくっている。納屋はトマトジュース加工室と販売所なのだ。この納屋を気に入った藤原さんが、ぜひここで上映会をやりたいと思い、今夜一年越しで上映にこぎつけたのだった。

大井さんの自宅

 大井さんの自宅も、とても素敵だった。1階がワンフロアでキッチンと食卓とパソコン机。ウッドデッキがあって大きな窓からの眺めがとてもいい。病院からもらったという木の下駄箱や長いすなどもいい味を出していた。がっちりした木のベビーベットが存在感がある。1階は土足。アメリカの小さな農場の雰囲気だ。2回が寝室とリビングで、ここは靴を脱いであがる。大井さん夫妻がセンスがよくスマートだから家もそうなのだろう。でも就農して、ここまでくるにはきっと色んな事をひとつひとつ乗り越えてきたに違いない。トマトジュースは今まで飲んだトマトジュースの中で一番おいしかった。

 6年前、中富良野の大越さん宅で⒗ミリフィルムでラッシュ上映をした時、タカエさんは見に来てくれたそうだ。それを聞いてびっくりした。色んなところで人はつながっていくものだなあと。

 暗くなり、出店者の人たちが店じまいを始め、私たちは上映の準備にかかった。アンプがなく、スピーカーに音量調節がついてなかったので、DVカムでの上映ができなくなり、万が一のためのバックアップで持ってきたDVD上映に切り替えた。ハプニングがあったが、画と音を調整し、無事上映を開始した。

 40人ほどのお客さんで会場は満員になった。みんな毛布や座布団を持参していた。これだけ人が入ると、寒さの心配はまったくなかった。

  藤原さんが上映前にあいさつをした。仲間の協力で一年越しで実現できたこと、そして自分の役割はこの映画をつなぐことだと彼は言った。次に上映をやる人がいたら喜んで手伝うと。私は感動した。自分の映画をこんな風に思ってくれる人がいるなんて。「空想の森」はつくったスタッフ、登場してくれた人たち、協力してくれた人たち、そして上映してくれた人たちの映画になっている。

 納屋での上映は「空想の森」にぴったりだった。みんなすごく集中して観ているのがわかった。何より嬉しかったのは、笑いどころは100パーセント笑っていた。宮下夫婦のやりとりなんかは、みんなゲラゲラ笑っていた。上映後、大きな拍手をいただいた。うれしいやら恥ずかしいやら。  

二人ほど自主上映をやってみたいという人がいたので、資料一式を渡した。素晴らしい上映会だった。

 お客さんを見送った後、持ち寄った食べ物で交流会が始まった。いなり寿司、柿のようなきれいなオレンジ色のカボチャ、鶏肉の燻製(とりのす農園)、トマトスープ(パラダイスファーム)、パン、鹿肉の燻製などなど。

 メンバーは最近この辺りに移住してきた郷間さんご夫妻、神戸から移住してきた女性、農家の男性、旭川の女性、大井さん、藤原さん、私。色々な話をして本当に楽しかったし、勇気づけられた。こうやって話ができる人たちがここにもいるのだ。

  藤原さんはお客さんたちから、「よかったよ。ありがとう。」と言われて本当に嬉しそうだった。そしておいしそうにワインを飲んでいた。この上映会に人をよぶために奔走し、すばらしい上映会になり嬉しくてたまらないのだろう。そしてこの上映会をきっかけに新たな人のつながりができた。ここからまた何かが始まっていきそうだ。藤原さんはどうやら人をつなげていく役割になっていきそうだ。

  この晩は大井さんの2階の部屋に泊めていただき快適に眠った。

2010年3月7日。

 

 朝食をごちそうになり、大井さん一家と別れた。
  藤原さんの車について、20分ほど離れた当麻町のとりのす農場に向かった。藤原さんも7、8年ほど前に、内地からここに入植した。入植した頃は、「困ったら茶碗もって来いよ。」とまわりの農家の人たちに言われ、とても嬉しかったそうだ。そうやってまわりの人たちに気にかけてもらい、助けられてここまでやってきたそうだ。

  現在は、鶏を250羽飼い、野菜、米などをつくっている。ハウスの中には青々としたほうれん草が。今の時期のほうれん草は甘くておいしい。

 
とりのす農場にて。藤原さん。

  藤原さん手製のかんじきをはいて、散歩がてら農場を案内してもらった。もともと水田だったところを畑にした。何箇所か共働学舎の宮嶋さんに炭を埋めてもらったそうだ。2年後くらいに水はけがよくなったそうだ。畑の端まで歩くと、きれいな川が流れていた。

  母屋の脇の小屋で鶏の餌の調合をしている。その隣にも家があり、いづれはここでプリンをつくる作業場しようと考えているそうだ。 

 そして昼過ぎ、私はとりのす農場を後にした。今回も最高の上映会だった。

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