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旅する映画 その43 時は流れ、みんなそれぞれ歩いている

R0010703 ハル小屋

ハル小屋(森町)・喜茂別町での上映会は私にとって非常に感慨深い上映会となった。

函館上映会が決まったことをきっかけに、ハル小屋の方は、七飯町と函館でパン屋を営むこなひき小屋のおかみさんが、喜茂別町は、N’DANAのメンバーでもある三田健司さんが中心になって上映会を計画してくれた。

R0010711函館映画鑑賞協会の佐々木さんも来てくれた

2009年9月29日。
晴天。夕暮れ時の山の端が、すばらしくきれいな日だった。
おかみさんの友人、ハルエさんの素敵な小屋での上映会。

おかみさんが学舎の野菜(かぼちゃ、人参、芋、とうきびなど)を取り寄せて販売もした。

ハルエさんの娘さんたちがつくった料理と好きな飲み物を飲みながら、お客さんは思い思いに映画を観た。

森の中。木の香りがただよう小屋で、贅沢な時を過した。

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2004年秋。

20分ほどにつないだラッシュフィルムと16ミリの映写機を持って映画づくりのアピールと資金集めを兼ねて道内をまわった時、

七飯町の親方の自宅で上映させてもらった。

当時はまだ撮影に手応えがなく、どんな映画するのか、私自身もさっぱりわかっておらず、明るい材料がなく、先が見えなくてもがいていた。

そんな時に七飯町のおかみさんと親方、大沼の池田誠さん、富良野の大越さんがラッシュ上映の機会を与えてくれ、人を集めてくれた。

そのことがその後、どれほど私を支えてくれたことか。

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ハル小屋では、午後と夜に2回上映をして、60人ほどの人が足を運んでくれた。

その中にラッシュ上映会に来てくれた人が何人かいて、嬉しい感想をいただいた。

自主上映に興味を持った女性も現れた。

私は兎にも角にも、完成した映画を見せることができて心からホッとした。

撮影時、共働学舎にいて撮影にも協力してもらった山田あゆみさんは、学舎のチーズ職人の山田圭介さんと結婚して独立し、この近くで農場を営みチーズをつくっている。

あゆみちゃんも来てくれた。

圭介はすでに映画を観ているので、家で二人の子供の子守をしているという。

明日時間があったら山田農場に泊まりに来てねと誘ってくれた。

R0010717親方

親方は2回とも初めから終わりまで映画を観ていた。

どんな風に映画を観たのだろうと、私は気になっていた。

その親方から嬉しい言葉をもらった。

そして「今度は厚沢部で上映会やろうよ。」と親方は言った。

あきらめないで完成させてよかったと私は心底思った。

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星のきれいな夜だった。気がついたら、おかみさんとハルエさんと私の三人になっていた。

上映会は盛況、お客さんの反応も上々、女三人で祝杯をあげ、深夜まで話し込んだ。

結局泊まりは二人だけだった。

おかみさんと私は、ハル小屋の隣の小屋(ハルエさんのだんなさんの作業小屋)の2階で、修学旅行のように並んで眠った。

R0010720左:おかみさん、右:ハルエさん

2008年9月30日。
函館のミニシアター、シネマアイリスに営業に行く。

菅原支配人と3:00にアイリスで会うことになった。

その前に、三日月茶寮いう喫茶店へ。

ここはアイリスの菅原さんが経営しているお店で、コーヒーがとてもおいしい。

シネマアイリスに行くのは「闇を掘る」の上映の時以来、6年ぶりくらいだ。

今回の上映会では、チケットの取り扱いなどアイリスにも協力をしていただいた。

菅原支配人にそのお礼と函館上映会の報告をした。

そして資料などを渡し、上映のお願いをした。
帰り際、菅原さんに「今日はどこにお泊りですか?」と聞かれた。

「山田農場です。」と答えると、「あの有名な美味しいチーズの山田農場ですか」と言ったのには驚いた。

そして「仲間がたくさんいていいですね。」と菅原さんは言った。

ああそうか、そう言われると道南には仲間がけっこういるなあと思い、嬉しくなった。

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そして私は、澄み渡った秋空の下、山田農場に向かって車を走らせた。
夕方、山田農場に到着。

R0010743耕作君

圭介はこの春に生まれた次男の耕作を背負い、ヤギと牛の餌やりや小屋の掃除をしていた。

R0010734子ヤギ

あゆみちゃんは別棟の子ヤギの世話をしていた。
農場の夕方は忙しい。

R0010738優作君

長男の優作は最初、恥ずかしそうにしていたが、そのうち私に慣れてきた。

抱っこやおんぶをしたり、逆さにしたりしてひとしきり遊んだ。
空には夕焼け雲が浮かんでいた。

「お月様きれいだね」と優作。

西の空のまあるい月を優作といっしょに眺めた。

R0010733放牧地の中腹辺りからの山田農場

小さな山の斜面の中腹に2階建ての母屋。

それに隣接して母屋と同じつくりのチーズ工房と売店。

二階はゲストルーム。

工房の向かいが、ヤギ小屋。

ヤギが10頭と牛(ブラウンスイス)が2頭。

家の脇は森。近くには沢が流れている。

ヤギ小屋の右手に続く山の斜面は結構な勾配の放牧地。

2町ほどある。

実際に放牧地のてっぺんまで登ってみると、母屋は豆粒ほどに見えた。

かなりの勾配と広さがあることがわかった。
空気が冷たくなってきた。

「お家に入ろう」と優作に手をひかれた。

R0010731放牧地のてっぺんからの山田農場

圭介たちはチーズをつくっていける土地を探し、ここに決めた。ただの山だったこの地。

草を刈り、整地し、ヤギ小屋をつくり、家をつくり、チーズ工房をつくり、沢から水を引き、圭介たちは全てを自分たちでつくってきた。

ここまでくるのにどれほど大変だったろうと思う。

それでも、自分がつくりたいチーズをつくるために、一つひとつ積み上げてきた過程は、大変だったろうけど、きっと人との出会いやドラマがたくさんあったのだろうとも思う。

R0010700売店

圭介が建てた家はちゃんと家だった。

水洗トイレだってある。

ヤギチーズ、牛のチーズ、ワイン、白菜と豆腐の鍋、玄米、今年初めて採ったというボリボリの味噌汁。

5人で夕食を囲みながら、色々な話をした。
あゆみちゃんはどっしりした母ちゃんだ。

圭介はとても面倒見のいい優しい父ちゃんだ。

自分が目指すチーズを試行錯誤しながら毎日つくっている圭介は、とてもいい顔をしていた。

手ごたえも感じているようだ。

ヤギのフレッシュタイプ、熟成タイプ、ウォッシュタイプ、どれも本当においしい。

私は圭介のヤギチーズを食べて、ヤギチーズが大好きになった。
この夜、チーズ工房の二階の部屋で私は快適に眠った。

R0010745売店の2階のゲストルーム

 

2009年10月1日。
7:30。起床。

今日は喜茂別町に移動して夜、上映会だ。
母屋へ。

みんなで朝食。

R0010746山田家の朝食

パン、チーズ、スクランブルエッグ、プルーン。

豪華だ。

毎朝4時から働いている圭介は2回目の朝食だ。
あゆみちゃんが優作を保育所へ送っていった。

 

R0010760

私は圭介のチーズづくりを見学させてもらうことになった。

チーズ工房は小さいけど、製造室、熟成庫、乾燥室、醗酵室などがちゃんとある工房だった。

道具などは工夫して使っていた。

大きな胴のボールでチーズをつくっていた。

R0010757

目の高さのところに小さな四角いガラス窓が一つある。
そこには森の木々が切り取られて見える。

きっと四季で表情を変える画のような窓なのだろう。

R0010761

私は仕事の邪魔にならないよう注意しながら、圭介と話をした。

チーズというものを、始めから最後まで全て自分の手でつくっていることがよくわかった。

逆に言えば、自分の手でできることしかやらないということだ。
「100年くらいかかって、自分が目指すこの土地のチーズが完成すると思う。だから今のうちに自分がやれることをやっておこうと思う。」と圭介は言った。

「学舎で学んだことをやっているだけだけどね。」とさらりと言った。

その言葉が心に残った。

R0010753熟成庫

R0010768

10:00。

山田農場を後にして、私は喜茂別町へと車を走らせた。
洞爺湖の辺りから山道になってきた。

それを越えると、羊蹄山がどーんとある風景になった。

17:00頃。

今日の会場の喜茂別町農業改良センターに到着。

三田一家がすでに準備を始めていた。

三田君は相変わらず、飄々とした中にどこか温かいおかしみのある人だった。

奥さんの紗衣子さんはとてもチャーミングな人だった。

長男の歓平くん、次男の晴造くんは元気そのもの。
私は早速機材と物販を運び込み、準備にかかった。

広い会場だった。スクリーンが大きくて嬉しかった。

平席にパイプ椅子を並べた。

プロジェクターにDVカムデッキをつなげた。

映像は問題がなかったのだが、音の入力のジャックに問題があり、音が出なかった。係りの伊藤さんが、急遽、装置をこしらえてくれ、事なきを得た。

音の調整に時間がかかった。

天井のスピーカーは切ってもらい、色々試して、前にある2種類のスピーカーから音を出すことにした。

担当の方が熱心にやってくれたおかげで、かなり元の音に近い音に調整できた。

「調理室におでん、とうきび、ご飯を用意したので食べてください。」と紗衣子さん。

おいしくいただいた。
斉藤愛三君もやってきた。

本当に久しぶりだった。

愛三君は受付の係り。

40人ほどのお客さんが集まってきた。

R0010771

19:00。

三田君率いるタイコのグループの演奏で上映会が始まった。

歓平や晴造も張り切ってたたいていた。

私も飛び入りで一緒にタイコをたたかせてもらった。

久しぶりにタイコをたたいて楽しく、テンションが上がってきた。
私は一番後ろからスクリーンを観ていた。

笑ったり、隣の人と話をしたり、お客さんはとてもいい感じで見ていた。

喜茂別も酪農や農業をしている人がたくさんいる町だ。

そういう人たちに、この映画がどう観られるのか、気になるところだったが、この感じはかなり好感触だった。

R0010770斉藤愛三さん。牧場タカラでチーズをつくっている。

R0010774ラモーナと子供たち

上映後の質疑応答では、撮影当時、学舎にいて映画にも出てくる愛三君とラモーナにも前に出てきてもらい、一言感想を言ってもらった。

愛三君は妻の美紗子さんと、実家の牧場タカラ(喜茂別町)に帰って現在チーズをつくっている。

ラモーナは家族でこの町の近くで暮らしているとのこと。

今日は長男の天理くんと次男のヨアンくんを連れて観に来てくれた。

愛三一家もラモーナ一家も元気にやっているのだなあと嬉しくなった。
帰り際に「音楽がよかったです」と私に声をかけて帰って行く人がたくさんいた。

パンフレットよりも映画音楽CD「楽音日和」の方がよく売れたのはここが初めてだ。
大きなスクリーンで音も画も元に近い状態で見せられて私は嬉しかった。

いい上映会だった。
撤収し、三田家へ。

愛三君も来て、夕食を囲みながら打ち上げ。

上映会の成功を祝った。

3:00ころまで三田君と話し込んだ。

長く素晴らしい一日だった。


R0010820三田家の台所から

2009年10月2日。
12:00。起床。

三田君の家は元教員住宅で結構大きな一軒屋だった。

私は2階の部屋を使わせてもらった。

下へ降りると、子供らがきゃっきゃっと元気に遊んでいた。

男の子が一人増えていた。

隣のシンちゃんだった。

歓平の同級生で大の仲良しらしい。

R0010778右から:歓平くん、シンちゃん

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早速ランチ。

トマト、リコッタのパスタ、コールスロー。

とても賑やかな楽しいランチ。
この日、私はもう一泊させてもらうことになっていた。

三田君は喜茂別町を私に案内してくれた。

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旧双葉小学校の校庭

三田家の隣は旧双葉小学校。

7年前に廃校になった。

愛三君の母校でもある。

今はシンちゃん一家が住んでいて、シンちゃんの両親がカフェ・資料館・宿などを管理・運営している。

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R0010793牧場タカラにて。左から三田君と晴造、愛三君、愛三君の母さん

愛三君の牧場タカラも、三田家のすぐ近くだった。父さん、母さんにお会いした。

とても明るくて温かい人柄がにじみ出ているご両親だ。

会うなり「映画が素晴らしかった。見せたい人がまだいる。」と言われて、本当に嬉しかった。

牧場タカラは新潟から入植した先代から数えて100年が経つそうだ。

牛舎やサイロが昔のままで味がある。

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あいにくの雨降りだったが、牧場見学のお客さんが来ていた。

父さんがほろ馬車でなく、ほろトラクターで牧場案内をするというので、私たちも便乗した。

牧場内をゆっくりと走る。

R0010798愛三君の父さん

放牧地で降りて、牛に触ったり乗ったりさせてくれた。
父さんのしゃべりには、牛や生き物への愛情があふれていた。

そして最後に牛乳を飲ませてもらった。

うまい。

ほんと美味しい牛乳だった。

R0010806

R0010810

夕方、大滝村の温泉へ。

温泉のすぐ近くに山城さんの家があるので寄った。

山城さん夫妻は農業を営んでいる。

昨日映画を観に来てくれた。

宮下さん夫婦の入植時からの友人でもある。

素敵なご夫妻だった。

R0010815山城夫妻

山城さんが「映画が説明的でないのがよかった。」と私に言った。

帰ったら宮下さんにすぐに報告しよう。
温泉にゆっくり入り、三田家へ戻った。

R0010790草立くん

愛三君・美紗子さん夫妻と、長男の草立君が来ていた。

草立は笑ってしまうほど美紗子さんにそっくり。

でもとてもかわいい。そのうち歓平、晴造、草立は、裸になって走り回り、はしゃぎまくっていた。
愛三君は、大きい体が更に大きくなっていた。

美紗子さんはちゃんと母さんになって柔らかい感じになっていた。

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三田家4人、斉藤家3人、総勢8人のにぎやかな夕食。

スープパスタ、愛三くんのチーズ、パン、豚肉とモヤシの炒め物、卵焼きなど、三田君が料理の腕をふるった。
「また洞爺辺りで上映会をやりましょうよ。観たい人がまだいますよ。」と三田君と紗衣子さんが言った。

なんて嬉しいことだろう。

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映画と格闘していた7年、そして完成してから今までの月日を想った。
この映画に関わった人たち。

親方、おかみさん、圭介、あゆみちゃん、愛三、美紗子、そして被写体の宮下さん夫婦、山田夫婦、美和ちゃん、有里ちゃん、西村君、いんであん、それから私、岸本君、一坪君の撮影隊の面々にも、日々色々なことがある中、時には大きな選択や決断をしなければいけないこともあったと思う。

悩んだり苦しんだり、または笑いとばしたりしながら、何が大事なのか、何を大切に生きていきたいのかを考えてきたと思う。

もちろん今もその渦中にあるのだが、みんなそれぞれのフィールドに立っている。

今回「空想の森」を観ていて、その確かに流れていった時を感じずにはいられなかった。

それはすなわち、私たちは生きているということなのだとも思う。

その流れていった時の中でつかみとったものを、今私は感じている。

二度とはないあの時、あの瞬間の自分たちを記録できたことを本当によかったと思う。

映像に映っているのはあの頃の私たちだが、その時間を同じように自分と重ね合わせて観てくれる人がいる。

私は映画を完成させたことで、また今までとは違った形で仲間やこれから出会うであろう人たちとつながっていけることに嬉しさを覚えている。

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