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風のたより その214 太田和子さん

2011年の師走に私は初めて太田和子さんにお会いした。

福井で「空想の森」の上映会を主催してくれた玉井さんをインタビューしに伺った時に、

敦賀の太田さんの家に連れていっていただいたのが最初だ。

玉井さんは事前に私に紹介したい人に話をつけ、すぐにインタビューできる体制をつくってくれていた。

 

「太田さんは敦賀の反原発の女傑の一人です。」

とその時玉井さんから聞かされていた。

会った時から私は太田さんが大好きになった。

太田さんの家はとても素敵だった。

古い民家を移築した家で、中には昔ながらの生活の道具が所狭しと置かれていた。

二階は資料館にしてあり、誰でも見られるようになっていた。

家の前には大きな木があり、庭には植物が生い茂っていた。

そして早速インタビューをさせていただいた。

インタビューを始めて10分ほどで太田さんの具合が悪くなった。

すぐに近くの病院に玉井さんの車で連れていって診てもらった。

福島の原発事故後、敦賀の反原発活動を長年やってこられた太田さんに話を聞こうと、

たくさんのメディアが取材にきていた。

私もその中の一人だった。

その度に嫌な原発のことを話し、具合が悪くなっていたのだ。

大事には至らず、しばらく病院で休んでから家に連れて帰り、そこで別れた。

それから太田さんは時々私に電話や手紙をくれるようになった。

 

2012年11月。

私は再び敦賀を取材することにした。

「あの時の続きの話を聞きたいのですが・・・」

と言うと太田さんはきっぱりと言った。

「もう原発の話はしたくありません。」

「では敦賀の自然の話を聞かせてください。」と言うと、

「それも原発につながるので話したくありません。田代さん、ウチに遊びにいらっしゃい。離れに泊まるところがありますから。」

と太田さんは言った。

それで私は、太田さんのところにはただ遊びに行くことにした。

 

離れは暖かくすこぶる快適だった。

私はここを拠点に撮影して歩いた。

太田さんは後に写真集を出すのだが、その写真を撮ったジャン・コルペのお孫さんがこの離れに住んでいたのだった。

その写真集をつくろうとしている話や、

敦賀の歴史や自然のこと、海で泳いだ事、

母さんのこと、今まで飼ってきた猫や犬の話を

毎日火鉢にあたりながら物語を語るように話してくれた。

あんなに話したくないと言っていた原発の話もたくさんしてくれた。

その話を聞いているうちに、話したくなくなるのも私なりにわかるようになった。

 

時々、飼っている猫のくず子さんがやってくる。

美人の猫だ。最後まで私には身体を触らせなかった。

太田さんは猫にはものすごく優しい。

くず子さんも野良猫に自分のエサをあげているやさしい猫だ。

くず子さんと太田さん。

二人はに似ている。

 

太田さんの話を聞きながら、私は撮りたいと思いながらも一度もキャメラを回さなかった。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、太田さんが、

「明日天気がよかったら、原電(電力会社)に行きます。」

私に撮影していいと言った。

私はものすごく嬉しかった。

 

太田さんは長年に渡って原電の社員通用口の前に

「自然を壊さないでください」と書いた大きな紙を持って一人で立っていた。

それは80歳を超えてからも体調のいい日は続けていたのだった。

しかし翌日は天気が悪く、行くことにはならなかった。

それはそれで仕方がないと私はあっさり受け止められた。

 

その後も、太田さんの語りが続いた。

私にとっては贅沢な授業を受けているようなものだった。

私はすぐ質問をする。

すると太田さんは、「あなたそんなことも知らないの」

と言いながらも丁寧に答えてくれる。

 

ある夜、太田さんが「おでんを食べに行きましょう」と言った。

歩いて行こうと言う。

二人で30分ほどゆっくりと歩いた。

空を見上げたり、色んな話をしながら敦賀の町を歩いた。

私はビールを飲みながらおでんをたらふく食べた。

太田さんが映画への協力ですと言って御馳走してくれた。

 

「原発反対というより、敦賀の自然が壊されるのが嫌だったんです。

今は、もの言えぬ植物と動物のために原発反対をしようと決めました。」

太田さんは常々言っていた。

その通りに生きた人だった。

私がいっしょに過ごしたのはほんの短い間だったけど、そう思う。

 

太田さん、本当にお世話になりました。

愉しかったです。

ありがとうございました♪

映画ができたら報告に行きますね。

 

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