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風のたより その336 タイコウの稲葉さん

 タイコウの稲葉泰三さんと。

正月に美味しい出汁を引くために

美味しい鰹節を買おうと

東京は晴海の鰹節専門のタイコウへ行きました。

 

前から一度訪ねたいと思っていました。

大阪のこんぶ土居さんが紹介してくださり、

タイコウの稲葉さんは、顔も知らない私の映画に製作協力をしてくださいました。

そして何より鰹節が美味しいのです。

 

鰹節センターのビルの1階はずらっと鰹節屋さんの店が並んでいました。

その中にタイコウさんがありました。

ここでお客さんに品物を売るという感じではなかったのですが、

せっかく来たのでドアをガラッと開けてみました。

 

中では忙しそうにスタッフの方が働いていて、

稲葉さんを呼んでくれました。

 

しばらくすると、鋭い目をしたチャキチャキした感じの人がやってきました。

 

「12月は一番忙しい時期なんだよねー。

あと30分くらいしか時間ないんだよ。」

と稲葉さん。

「スイマセーン。鰹節、ここで買えると思って来ました。」

と私。

 

「買えるよ。」

と稲葉さん。

 

で、ここで鰹節を削る道具も買えるとのことなので、

鰹節のプロの稲葉さんから鰹節と道具を買うことにしました。

 

稲葉さんは素人の私にとても丁寧に鰹節のことを説明してくれ、

自分が使っている削る道具も全種類見せてくれた上に、

今自分が食べている鰹節で削って見せてくれました。

 

 

 

鰹節といっても、一本一本味が違うこと。

「ほら、こっちの鰹節は少し赤みがかってるだろ。これは太っていて脂が乗っているんだ。で、濃厚な出汁が引けるんだ。」

「こっちのは、少し青っぽいだろ。これは痩せていて、脂が少ないからあっさりした出汁が引けるんだ。」

 

実際削った鰹節を食べてみるとその味は歴然と違う。

稲葉さんは鰹節のその姿を見ただけで、どういう味か、

そして生きてる時の姿も想像できるそうです。

 

ビルの中は鰹節の匂いが漂っています。

商品が積まれている部屋へ連れていってくれました。

その中の一つのダンボールを開けました。

鰹節がぎっしり詰まっています。

「美味しいのがいいだろ?」

「はい。美味しいの頼みます。」

その中から一本選んでくれました。

 

「いい品質の鰹節の価値をきちんと伝えていく。これが俺の仕事だよ。

こんぶでは土居さんがやってる。」

 

しびれました。

プロフェッショナルです。

 

それから鰹節は3面を削っていくのです。

その面によって味が違う。

 

「へー、ほんとですね!」

「うわ、美味しい!」

 

削りたての鰹節のうまさに私はコーフン気味。

 

削る道具もいろいろあります。

ハガネの歯は太い方がいい。

使っていくうちに研がなくてはいけなくなってきます。

自分で研げない場合は研ぎに出さなくてはいけません。

その間、鰹節が削れなくなるので、

もう一台持っていた方がいいということになります。

 

稲葉さんはお母さんの形見の30年使っているものの他、

あと二つ持って使っているとのこと。

それも全部見せてくれました。

 

それから、削れた鰹節が落ちるところが引き出しになっている形は

強度が弱いので、引き出しでなくただの箱になっているものの方が強度がいい。

 

 

鰹節を削る時、できたら床に置いて、体重をかけて削った方がいいので、

道具は丈夫な方がいい。

 

稲葉さんの説明を聞いて、

私は研ぎに出さなくていい替え刃付きのもので引き出しなしのものを買うことにしました。

歯の調整も稲葉さんがやってくれました。

歯が緩んできたらこのようにシールなどを貼って調整するのです。

 

稲葉さんが今自分で食べている濃厚な出汁が出る鰹節をくれました。

私が恐縮していると、

「いいんだ、ウチは売るほどあるんだから。」と稲葉さん。

「だって鰹節屋じゃないですかー!」

 

 

稲葉さんに築地の美味しい店を伺ってみました。

「今はもううまい店はないな。」

「そうですか・・・」

「あ、一つあった。多け乃。」

 

忙しい中なのに、結局随分長い間お邪魔してしまいました。

いろいろお話を聞かせていただいてありがとうございました!

 

帰り際に

「また寄れよ。」

と稲葉さん。

「はい。また寄ります!」

 

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